購入申込対応で、売主が試される瞬間
ある日の夕方。
スマホが鳴った。
不動産会社の担当者からだった。
こまめにメッセージや連絡をくれて安心。また進捗報告だと思ったら、
「買付、入りました」
一瞬、時間が止まった。
あれだけビラ配りもてもらったのに、なかなか内見が思ったように増えない。
期待して、落ち込んで…と不安定。
ようやく出た、“具体的な意思表示”。
嬉しい。
でも、同時に思った。
ここからが、本番だ。
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買付=ゴール、ではない現実
正直、私は少し勘違いしていた。
「買付が入る=ほぼ決まり」
そう思っていた。
でも、担当者に言われた。
「ここからが、調整と判断の連続です」
買付は、
ゴールではなく、スタートラインだった。
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申込み条件を一つずつ整理する
まず提示されたのは、申込み条件。
• 購入希望価格
• 引き渡し希望時期
• ローン利用の有無
• その他条件
書面で見ると、
現実味が一気に増す。
数字が並ぶ。
日付が書かれている。
「この家を、この条件で買いたい」
そう言われている感覚。
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価格を見る瞬間の、心の揺れ
一番最初に目が行くのは、
やっぱり価格だった。
正直に言うと、
希望価格ぴったりではなかった。
少し、下だった。
「やっぱり来たか…」
内見フィードバックで言われていた
「価格が合えば」という言葉が、頭をよぎる。
ここで感情が動く。
• もっと待てば、条件のいい人が来るかもしれない
• でも、この人を逃したらどうなる?
頭の中で、
何度も天秤が揺れた。
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引き渡し時期は、生活そのものに直結する
次に見るのは、
引き渡し時期。
これ、かなり重要。
• こちらの引っ越し準備
• 次の住まいとのタイミング
• 子どもの予定
• 仕事の都合
「◯月末希望」
その一文で、住んでいる場合は、
一気にスケジュールが現実になる。
「間に合うかな…」
「この日程、無理してない?」
価格だけじゃない。
生活が回るかどうかの判断でもあった。
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売主としての返答は、即答できない
担当者に言われた。
「すぐ返事しなくて大丈夫です。
一度、整理しましょう」
この一言に、救われた。
買付が入ると、
焦る。
でも、
売主にも考える権利がある。
その夜、
家族で話し合った。
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家族会議:数字と感情のすり合わせ
テーブルの上に、
買付書。
夫と向き合って、
一つずつ確認する。
• この価格、どう思う?
• この時期、現実的?
ここで大事だったのは、
「感情」と「現実」を分けること。
この家で過ごした時間。
思い出。
頑張ってきたこと。
それと、
市場での評価は別。
分かっているけど、
簡単じゃない。
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価格交渉をするかどうかの判断
悩んだ末、
私たちは決めた。
価格交渉をする。
理由はシンプル。
• こちらの最低ラインを下回っていた
• 内見数や反応を見ても、強気すぎる要求ではない
ただし、
欲張らない。
「この金額なら、即決します」
そう伝えてもらうことにした。
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交渉中の、あの落ち着かない時間
交渉は、
担当者を通して行われる。
だから余計、待つしかない。
• 今どうなってる?
• 返事来た?
スマホを見る回数が増える。
この時間、
本当に落ち着かない。
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返答が来た瞬間の、静かな緊張
数時間後。
「先方、こちらの条件で進めたいとのことです、ちょうど他の内見希望者が出てきて、その方もかなり前向きな様子とお伝えしたのも、決め手でした。」
その言葉を聞いたとき、
思ったより静かだった。
飛び上がるほど嬉しい、というより。
「あぁ…決まるんだ」
人生の大きな決断で購入した家、私の人生の一部。やはり喜びより、手放すという寂しさがあった。

家族が始まった記憶、家族時間を楽しんだ家。
そんな感覚。
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手付金の確認で、一気に現実になる
次に確認するのが、
手付金。
• 金額
• 支払い時期
• 契約解除時の扱い
ここは、
感情を挟まない。
数字とルールの話。
担当者が丁寧に説明してくれて、
少し安心した。
「ちゃんと進んでる」
そう実感した瞬間だった。
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売買契約日程の調整は、最後の山
契約日を決める。
• 売主
• 買主
• 不動産会社
全員の予定を合わせる。
平日が多く、
仕事の調整も必要。
「この日なら大丈夫です」
そう言った瞬間、
もう後戻りできない感じがした。
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契約が近づくにつれて、家を見る目が変わる
不思議なことに、
契約日が決まると、
家の見え方が変わった。
• この壁、最後だな
• この窓、もうすぐ見納め
急に、
一つ一つが愛おしくなる。
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買付対応で学んだこと
今、振り返って思う。
買付対応は、
売主の覚悟を問われる工程だった。
• 条件を整理する冷静さ
• 感情と折り合いをつける力
• 決断する勇気
どれか一つ欠けても、
前に進めなかったと思う。
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これから買付を迎える人へ
もし今、
買付を待っているなら。
そして、
買付が入って戸惑っているなら。
焦らなくていい。
欲張りすぎなくていい。
でも、
自分たちの軸だけは、手放さないでほしい。
売る家は、
確かに“物件”。
でも、
売るのはあなた自身の選択だ。
