木. 2月 26th, 2026

ローマで自由を知った翌日、
旅はナポリへ向かった。


ローマ駅。
高速列車のチケットを自分で購入できたとき、私は小さく誇らしかった。

パンを買い、飲み物も手に入れた。
よし、今日は列車の旅を楽しもう。

昨日までの私は、
地図をスクショで乗り切り、
ホステルに泊まり、
ひとりでピザを頬張り、
プライドパレードの熱に心を撃ち抜かれた。

少しだけ、「できる旅人」になった気がしていた。

けれど、その自信はあまりにも脆かった。

笑顔の裏側


ホームで一人の男性が話しかけてきた。

何を言っているのかは分からない。
でも笑顔だ。身振りも柔らかい。

あぁ、旅行者だから手伝ってくれるのかな。
チップ狙いかもしれないけれど、まあいいか。
今日はご機嫌だし。

そう思った。

彼は座席まで案内してくれるらしい。
私を見ながら後ろ向きで歩く姿は慣れているように見えた。

その時だった。

彼の目線が、私のバッグに落ちた。

ほんの一瞬の違和感。

次の瞬間、
背後から別の手がバッグのチャックに伸びていた。

え?

何が起きているのか理解する前に、
心臓が喉元まで跳ね上がった。

席は四人向かい合うタイプ。
すでに三人客が座っている。

そんな密封空間に更に三人の男が私の前を囲う。
あっ、囲まれた。

すでに私の顔に笑みは無い。

「金を払え」

言葉は分からなくても、空気で分かった。

私は事前に右手にチップを握っていた。
それを奪うように持っていかれた。

その瞬間、私は噴火した。

「かね、かえせ!!」

日本語で怒鳴り、
自分でも驚くほどの勢いで奪い返した。

周囲には客が三人座っている。
1メートルも離れていない。

でも誰も、何も聞こえていないかのような顔。

その無関心が、さらに怖かった。

私はバッグを抱きしめ、
お金を握りしめたまま座った。

震えていた。

他のポケットは?
何か取られていない?
パスポートは?

——グループ窃盗。

ほんの数分前までの“できる旅人”は消えていた。

疑う自分


パンも飲み物も、手をつけられなかった。

ゆっくりと車窓を楽しむはずだった列車の旅は、
終始緊張の時間になった。

隣の人すら疑ってしまう。

視界が狭くなる。
呼吸が浅くなる。

ナポリに着く頃には、
心はぐったりと疲れていた。

人に騙され、人に救われる


駅を出て、またスクリーンショットの地図を頼りに歩く。

でもさっきの出来事が頭から離れない。
うまく画面が読めない。

迷っているのか、
ただ立ち止まっているだけなのかも分からない。

そのとき。

60代くらいの女性が、
そっと私の携帯を覗き込んだ。

言葉は交わしていない。
でも「こっちよ」と微笑んだ。

彼女は歩き出し、
ホステルのすぐ近くまで案内してくれた。

特別な会話はない。
でも温度があった。

今日、私は人に騙された。
そして人に助けられた。


寒さと温かさは、同じ日に存在する。

それを、身体で知った。



心を掴んだホステル


ホステルに到着した瞬間、空気が違った。

ローマとは違う。
洗練されてる、アート空間、柔らかい。

オーナーは包み込むような歓迎で迎えてくれた。
インテリアはセンスがよく、
どこか安心感がある。

ローマでの学びを活かし、
ここでは一人部屋を選んだ。

扉を閉めた瞬間、
張り詰めていた糸がゆるむ。

オーナーは美味しいピザ屋と、
最高のコーヒー屋を教えてくれた。

荷物を置き、また街へ出る。

不思議と、私はもう元気だった。

ナポリという生命力


明日はアマルフィ海岸へ行く。

フェリー乗り場を確認しながら、
ひたすら歩く。

ナポリの街は、ローマより荒く、でも生き生きしている。

建物の色。
窓から揺れる洗濯物。
クラクションの音。
信号機すら愛おしく見えた。

オーナーに教えてもらったピザ屋は、
市民で溢れていた。

ナポリピザを頬張る。
Pizzeria Attilio’s

昨日ローマで撃ち抜かれた味とは、
また少し違う。

同じ国でも、同じピザでも、
街によってこんなにも違う。

幸せだった。

3日目にして、
振り返るには十分すぎる出来事。

恐怖も、怒りも、優しさも、感謝も。

すべてが一日の中にあった。


旅は、人間を教えてくれる


あの日、私は知った。

人は怖い。
人は優しい。


どちらも本当だ。

そして、自分の中にも両方ある。

怒鳴った自分。
疑った自分。

それでも前を向こうとした自分。

旅は景色だけじゃない。
人間の温度を知る時間だ。

あのナポリのホステルは、
今も私の心に残っている。

また行きたい。
あのオーナーに「ありがとう」を伝えたい。

ローマで自由を知り、
ナポリで現実を知り、
そしてもう一度、人の温度に救われた。

たった数日で、
私は少しだけ強くなった。

旅は、
私の弱さを暴き、
同時に、私の強さも教えてくれた。

一人旅、3日目。
まだスタートしたばかりだというのに、私の旅は波乱万丈だ。

投稿者 Osozaki-mama

20代での結婚が正解と思っていた私。仕事に生き、城を築き、40歳目前で運命が動く。今は育児とキャリアの戦場で、全部手に入れると決めていきる!育児、家事、仕事に子供のお受験や大好きな旅行など、ちょっと良かった決断や失敗談まで掲載させて頂きます!

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