木. 2月 26th, 2026

今もなお、不思議な記憶として、ふとした瞬間に蘇る一日がある。

理由は分からない。ただ、やけに鮮明なのだ。
空気の冷たさも、靴音も、胸の奥でざわついていた感情も。

そう、あの日は面接の日だった。

私たちは、その日行われる面接の第三グループ、つまり最終グループだった。
最終、という言葉には、妙な緊張感がある。

早めに自宅を出た判断は、結果的に正解だった。
学校近くの駐車場を四件回ったが、すべて満車
嫌な予感は的中し、駅近くに車を停め、タクシーで向かうことになった。

その時点で、私はすでに一つ、取り返しのつかないミスをしていた。
息子のコートを忘れたのだ。


気づいた瞬間、心臓が一段落ちる。
ニットにシャツだけの息子は、どう見ても寒そうで、母としての自分に即ダメ出し。
「なんでこんな日に限って」
「ちゃんと確認したはずなのに」
反省は、いつも時間差でやってくる。

それでも、指定時刻の十分前には到着した。
ここまでは、予定通り。
そう思ったのも束の間だった。

校門をくぐり、受付へ向かう途中で、違和感が一気に押し寄せてきた。


――あれ?

ニット帽のパパ。
スウェットのママ。
スニーカーにリュック。

一人、また一人と視界に入るたび、頭が追いつかなくなる。
見回せば見回すほど、上下スーツの私たち夫婦だけが、浮いている。

「え?カジュアル指定だった?」
「そんな案内、あった?」
「見落とした?いや、見てない?」

情報処理が追いつかず、頭の中で警報が鳴りっぱなしになる。
ヒールの音が、やけに大きく、やけに響く。
一歩進むごとに、「間違っているかもしれない」という声が、自分自身の内側から聞こえてくる。

それでも、とにかく受付だけは済ませた。
今さら服は変えられない。
ここまで来たら、進むしかない。

その後、夫が第二グループのパパ友に連絡して、さりげなく聞いてくれた。
「服装って、これで合ってるよね?」

返ってきた答えは、
「うん、上下スーツで問題ないよ」

その瞬間、身体の力が一気に抜けた。
安心という感情は、こんなにも即効性があるのかと思うほどだった。

――よし。

――戦闘態勢に入ろう。


そこからは、意識を切り替えた。
親の不安は、子どもに伝染する。
だから私は、息子だけを見ることにした。

緊張で表情が硬くなっている息子。
小さな手が、少し強く私の指を握る。
私に触りたがる。

「大丈夫だよ」
何度も、言葉と目線で伝える。
そしてここで遊ぶ息子を想像させて、未来の楽しい自分を想像して笑みが出る息子。

少しずつ、息子の顔が緩んでいく。
それを見て、私も呼吸が整っていく。

夫婦は、教師との十五分間の面談。

当たり障りのない質問、けれど一つひとつが重い。
言葉を選びながらも、「この子をちゃんと見てほしい」という思いだけは、嘘なく伝えた。

そして私たちの子育てに向き合う日々を伝えた。
言葉にすると子育ては素晴らしい。
連なる言葉が、幸せに満ちている。

その間、息子は三十分、子どもたちだけでの試験。

身体を使い、集団の中で過ごす時間。

息子を待つ時間は、長い。

時計を見るたびに、「まだか」と思う。
そして同時に、「どうか楽しんでいますように」と願う。

私たちは、大丈夫だ。
夫婦でここまで来た。
二人で決めて、二人で挑んでいる。

それでも、心配なのは息子だった。

やっと終わり。
廊下の前に出て息子を探す。

その瞬間、目に飛び込んできたのは――


誇り高い顔。

少し胸を張って、
もうすでに隣に仲間を連れている。
「やったよ」と言わんばかりの表情。

その顔を見た瞬間、すべてがほどけた。
あぁ、この子は、大丈夫だ。

画像

息子は、この日を楽しんだのだ。

急に決まった面接という非日常を、
「試される時間」ではなく、「体験」として受け取っていた。

家族で、乗り切った。
誰か一人が頑張ったわけじゃない。
走りきった、ただそれだけだ。

そして、私たちは家路についた。

帰り道、ふと気になって調べた。

――なぜ、あんなにカジュアルな服装の親が多かったのか。


検索しても、答えは見つからなかった。
体験談も、明確なルールも、出てこない。

謎は、謎のまま。

けれど今は、それでいい気がしている。
答えが出ない不安より、
息子が見せてくれたあの顔のほうが、ずっと確かだから。

このモヤモヤは、
少し寝かせることにしよう。

きっといつか、
「あの時は、あれで良かったんだ」と思える日が来る。

そう信じている。

そしてこの日の結果をひとまず待ってみるとする。

言葉にすると、心が劇場のように騒いだ日。
過ぎて、ホッとしてい。

読んで頂きありがとうございました!
謎めいた日ってありますよね。

そんな日を共感できたら嬉しいです!!

投稿者 Osozaki-mama

20代での結婚が正解と思っていた私。仕事に生き、城を築き、40歳目前で運命が動く。今は育児とキャリアの戦場で、全部手に入れると決めていきる!育児、家事、仕事に子供のお受験や大好きな旅行など、ちょっと良かった決断や失敗談まで掲載させて頂きます!

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